の興味ある風説に心惹かれ、種々策を廻らして調査を試みた結果、ようやく四人の身分のみを知ることが出来た。すなわち、第一|提琴《ヴァイオリン》奏者のグレーテ・ダンネベルグは、墺太利《オーストリー》チロル県マリエンベルグ村狩猟区監督ウルリッヒの三女。第二提琴奏者ガリバルダ・セレナは伊太利《イタリー》ブリンデッシ市鋳金家ガリカリニの六女。ヴィオラ奏者オリガ・クリヴォフは露西亜《ロシア》コウカサス州タガンツシースク村地主ムルゴチの四女。チェロ奏者オットカール・レヴェズは洪牙利《ハンガリー》コンタルツァ町医師ハドナックの二男。いずれも各地名門の出である。しかし、その楽団の所有者降矢木算哲博士が、はたしてカアル・テオドルの、豪奢なロココ趣味を学んだものであるかどうか、その点は全然不明であると云わねばならない。
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 法水の降矢木家に関する資料は、これで尽きているのだが、その複雑きわまる内容は、かえって検事の頭脳を混乱せしむるのみの事であった。しかし、彼が恐怖の色を泛《うか》べ口誦《くちずさ》んだところの、ウイチグス呪法典という一語のみは、さながら夢の中で見る白い花のように、い
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