、その顔はセレナ夫人の方へ向けられていた。
「ところでセレナ夫人、その風来坊はいずれ詮議するとして、時にこういうゴットフリートを御存じですか。|吾れ直ちに悪魔と一つになるを誰が妨ぎ得べきや《ヴァス・ヒエルテ・ミッヒ・ダス・イヒス・ニヒト・ホイテ・トイフェル》――」
「ですけど、その短剣《ゼッヒ》……」と次句を云いかけると、セレナ夫人はたちまち混乱したようになってしまって、冒頭の音節から詩特有の旋律を失ってしまった、「その|短剣の刻印に吾が身は慄え戦きぬ《ゼッヒ・シュテムペル・シュレッケン・ゲエト・ドゥルヒ・マイン・ゲバイン》――が、どうして。ああ、また何故に、貴方はそんなことをお訊きになるのです?」としだいに亢奮《こうふん》していって、ワナワナ身を慄《ふる》わせながら叫ぶのだった。「ねえ、貴方がたは捜していらっしゃるのでしょう。ですけど、あの男がどうして判るもんですか。いいえ、けっしてけっして、判りっこございませんわ」
 法水は紙巻を口の中で弄《もてあそ》びながら、むしろ残忍に見える微笑を湛えて相手を眺めていたが、
「なにも僕は、貴女の潜在批判を求めていやしませんよ。あんな風精《ジルフ
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