ェ》の黙劇《ダム・ショウ》なんざあ、どうでもいいのです。それよりこれを、いずこに住めりや、なんじ暗き音響《ひびきね》――なんですがね」とデーメールの「|沼の上《ユーベル・デン・ジュムフェン》」を引き出したが、相変らずセレナ夫人から視線を放そうとはしなかった。
「ああ、それではあの」とクリヴォフ夫人は、妙に臆したような云い方をして、「でも、よくマア、伸子さんが間違えて、朝の讃詠《アンセム》を二度繰り返したのを御存じですわね。実は、今朝あの方は一度、ダビデの詩篇九十一番のあの讃詠《アンセム》を弾いたのですが、昼の鎮魂楽《レキエム》の後には、火よ霰《あられ》よ雪よ霧よ――を弾くはずだったのです」
「いや、僕は礼拝堂の内部《なか》の事を云っているのですよ」と法水は冷酷に突き放した。「実は、この事を知りたいのです。あの時、|確かそこにあるは薔薇なり、その附近には鳥の声は絶えて響かず《ドッホ・ローゼン・ジンデス・ウォバイ・カイン・リード・メール・フレテット》――でしたからね」
「それでは、薔薇乳香《ローゼン・ヴァイラウフ》を焚《た》いた事ですか」レヴェズ氏も妙にギコちない調子で、探るように相手を見
前へ 次へ
全700ページ中268ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング