ようとは思われませんな。ですから、日常生活では、たいしてお互いが親密だと云うほどでもなく、若い頃にも密接した生活にかかわらず、いっこう恋愛沙汰など起らなかったのでしたよ。もっとも、お互いに接近しようとする意識のないせいもあるでしょうが、感情の衝突などということは、あの一団にも、また異人種の吾々《われわれ》に対しても、かつて見たことがないというほどですのじゃ。とにかく、やはり算哲様でしょうかな――あの四人の方々が、一番親愛の情を感じていた人物と云えば」
「そうですか、博士に……」といったん法水は意外らしい面持をしたが、烟《けむり》をリボンのように吐いて、ボードレールを引用した。
「では、さしずめその関係と云うのが、|吾が懐かしき魔王よ《オー・モン・シェル・ベルゼビュット》なんでしょうか」
「そうです。まさに|吾なんじを称えん《ジュ・タドール》――じゃ」真斎は微かに動揺したが、劣らず対句で相槌《あいづち》を打った。
「しかし、ある場合は」と法水はちょっと思案気な顔になり、「|洒落者や阿諛者はひしめき合って《ゼ・ボー・エンド・ウイットリング・ペリシュト・イン・ゼ・スロング》――」と云いかけた
前へ 次へ
全700ページ中241ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング