な傾向が強くなってまいりました。年に一度の演奏会でさえも、招かれた批評家達には、演奏台の上から目礼するのみのことで、演奏が終れば、サッサと自室に引っ込んでしまうといった風なのでした。ですから、あの方々が、何故揺籃のうちにこの館に連れて来られ、そうして鉄の籠の中で、老いの始まるまで過さねばならなかったかということは、もう今日では、過ぎ去った古話《ザガ》にすぎません。ただそういった記録だけを残したままで、算哲様は、そっくりの秘密を墓場の中へ運ばれてしまうのです」
「ああ、ロエブみたいなことを……」と法水は、道化《おどけ》たような嘆息をしたが、「いま貴方は、あの人達の厭人癖を植物向転性《トロピズム》みたいにお考えでしたね。しかし、たぶんそれは、単位の悲劇なんでしょう」
「単位? 無論|四重奏《クワルテット》団としては、一団をなしておられたでしょうが」と真斎は単位と云った法水の言葉に、深遠な意義が潜んでいるのを知らなかった。「ところで、あの方々とお会いになられましたかな。どなたも冷厳なストイシャンです。よしんば傲慢《ごうまん》や冷酷はあっても、あれほど整美された人格が、真性の孤独以外に求められ
前へ 次へ
全700ページ中240ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング