てあった。法水は扉の横手にある水道栓に眼を止めたが、それからは、昨夜のうちに誰か水を出したと見えて、蛇口から蚯蚓《みみず》のような氷柱《つらら》が三、四本垂れ下っている。云うまでもなく、それは昨夜ダンネベルグ夫人が失神すると、すぐに水を運んで来たとか云う――紙谷伸子の行動を裏書するものにすぎなかった。
「とにかく、問題はこの張出縁だ」と熊城は、右外れの窓際に立って憮然《ぶぜん》と呟いた。その窓の外側には、アカンサスの拳葉《けんよう》で亜剌比亜模様《アラベスク》が作られている、古風な鉄柵縁が張り出されてあった。そこからは、裏庭の花卉《かき》園や野菜園を隔てて、遠く表徴樹《トピアリー》の優雅な刈り籬《まがき》が見渡される。暗く濁って、塔櫓に押し冠さるほど低く垂れ下った空は、その裾に、わずか蝋色の残光を漂わせるのみで、籬の上方にはすでに闇が迫っていた。そして、時々合間を隔てて、ヒュウと風の軋《きし》る音が虚空ですると、鎧扉が佗《わび》しげに揺れて、雪片が一つ二つ棧の上で潰《ひし》げて行く。
「ところが、死霊《おばけ》は算哲ばかりじゃないさ」と検事が応じた。「もう一人ふえたはずだよ。だがディグ
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