の上には、昨夜の集会だけに使ったものと見え、安手の絨毯《じゅうたん》が敷かれてあった。なお、庭に面した側には窓が一つしかなく、それ以外には、左隅の壁上に、換気筒の丸い孔が、ポツリと一つ空いているにすぎなかった。そして、周壁を一面に黒幕で張り繞《めぐ》らしてあるので、たださえ陰気な室がいっそう薄暗くなってしまって、そこには、とうてい動かし難い沈鬱な空気が漂っているのだった。涸《か》れ萎《しな》びた|栄光の手《ハンド・オヴ・グローリー》の一本一本の指の上に、死体|蝋燭《ろうそく》を差して、それが、懶気《ものうげ》な音を立てて点《とも》りはじめた時の――あの物凄い幻像が、未だに弱い微かな光線となって、この室のどこかに残っているかのように思われた。その室を一巡してから、法水は左隣りの空室《くうしつ》に行った。そこは、昨夜易介が神意審問会の最中に人影を見たと云う、張出縁のある室だった。その室は、広さも構造もほとんど前室と同じであったが、ただ窓が四つもあるので、室の中は比較的明るかった。床には粗目《あらめ》のズックようのものが敷いてあって、その上に不用な調度類が、白い埃を冠って堆《うず》高く積まれ
前へ
次へ
全700ページ中217ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング