算哲が求めていたものと云うのは、何かの薬物であろう。しかし、それが何であるかということよりかも、法水の興味は、むしろこの際、なんらの意義もないと思われる空瓶の方に惹《ひ》かれていって、それに限りない神秘感を覚えるのだった。それは、荒涼たる時間の詩であろう。この内容《なかみ》のない硝子器が、絶えず何ものかを期待しながらも、空しく数十年を過してしまって、しかも未だもって充されようとはしないのだ。つまり、算哲とディグスビイとの間に、なんとなく相闘うようなものがあるかに感ぜられるのだった。また、酸化鉛のような製膏剤に働いていった犯人の意志も、この場合謎とするよりほかにないのだった。いずれにしても以上の二つからは、事件の隠顕両面に触れる重大な暗示をうけたのであったが、法水等三人は、それを将来に残して、薬物室を去らねばならなかった。
 続いて、昨夜神意審問会が行われた室《へや》を調べることになったが、そこは、この館には稀《めず》らしい無装飾の室《しつ》で、確かに最初は、算哲の実験室として設計されたものに相違なかった。広さの割合に窓が少なく、室《へや》の周囲は鉛の壁になっていて、床の混凝土《たたき》
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