未整理庫の中を頻《しき》りと捜してお出でのようでございましたが」
「昨夜はどうなんです?」と熊城は、たまりかねたような声で云った。
「それが、生憎《あいにく》とダンネベルグ様のお附添で、図書室に鍵を下すのを迂闊《うっかり》してしまいました」と無雑作に答えて、それから鎮子は、法水に皮肉な微笑を送った。「つきましては貴方に、|賢者の石《シュタイン・デル・ヴァイゼン》をお贈りしたいと思うのですが、クニッパーの『生理的筆蹟学《フィジカル・グラフォロジイ》』ではいかがでございましょう?」
「いや、かえって欲しいのはマーローの『|ファウスト博士の悲史《トラジカル・ヒストリー・オヴ・ドクター・フォースタス》』なんですよ」と法水が挙げたその一冊の名は、呪文の本質を知らない相手の冷笑を弾き返すに十分だったが、なおそれ以外に、ロスコフの「|Volksbuch の研究《ディ・シュトゥディエ・フォン・フォルクスブッフ》」([#ここから割り注]ファウスト伝説の原本と称されている[#ここで割り注終わり])、バルトの「|ヒステリー性睡眠状態に就いて《ユーベルヒステリッシェ・シュラフツステンデ》」、ウッズの「|王家の
前へ
次へ
全700ページ中212ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング