、眼前の壁はすでに雲を貫いている。そうなると、伸子の陳述にも、さした期待が持てなくなったことは云うまでもないが、別して法水が顕示した、不思議な倍音に達する二つの道にも、万が一の僥倖《ぎょうこう》を思わせるのみのことで、早くも忘れ去られようとするほどの心細さだった。やがて、鐘鳴器《カリルロン》室を出てダンネベルグ夫人の室《へや》に戻ると、夫人の死体は、既《とう》に解剖のため運び去られていて、その陰気な室の中には、先刻《さっき》家族の動静調査を命じておいた、一人の私服が、ポツネンと待っていた。傭人《やといにん》の口から吐かせた調査の結果は、次のとおりだった。
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降矢木旗太郎。正午昼食後、他の家族三人と広間《サロン》にて会談し、一時五十分|経文歌《モテット》の合図とともに打ちそろって礼拝堂に赴き、鎮魂楽《レキエム》の演奏をなし、二時三十五分、礼拝堂を他の三人とともに出て自室に入る。
オリガ・クリヴォフ(同前)
ガリバルダ・セレナ(同前)
オットカール・レヴェズ(同前)
田郷真斎。一時三十分までは、召使二人とともに過去の葬儀記録中より摘録をなしいたるも、訊問後
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