思うのだよ」
「フン、まだあるのか」と熊城は、唾《つばき》で濡れた莨《たばこ》とともに、吐き出すように云った。「もう角笛や鎖|帷子《かたびら》は、先刻《さっき》の|人殺し鍛冶屋《ヴェンヴェヌート・チェリニ》で終りかと思ったがね」
「あるともさ。それが、史家ヴィラーレの綴った、『ニコラ・エ・ジャンヌ』なんだ。奇蹟処女《ジャンヌ・ダルク》を前にすると、顧問判官どもがブルブル慄《ふる》えだして、実に奇怪きわまる異常神経を描き出したのだ。その心理を、後世裁判精神病理学の錚々《そうそう》たる連中が何故引用しないのだろうと、僕はすこぶる不審に思っているくらいなんだよ。ところで、この場合は、すこぶる妖術的な共鳴現象を思いついたのだ。つまり、それを洋琴《ピアノ》で喩えて云うと、最初※[#音名「一点ハ」の全音符を表わす楽譜(fig1317_09.png)、145−6]の鍵《キイ》を音の出ないように軽く押さえて、それから※[#音名「い」の全音符を表わす楽譜(fig1317_10.png)、145−7]の鍵を強く打ち、その音が止んだ頃に※[#音名「一点ハ」の全音符を表わす楽譜(fig1317_09.png)
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