と仮定しよう。けれども、その廻転の間に、当然遠心力が働くだろうからね。したがって、ああいう正座に等しい形が、とうてい停止した際に求められよう道理はないと思うよ。だから熊城君、椅子の螺旋と伸子の肢態《かたち》を対照してみると、そこに驚くべき矛盾が現われてくるのだ」
「あ、意志の伴った失神……」と検事は惑乱気味に嘆息した。
「それがもし真実ならば、グリーン家のアダさ。だから……」と法水は両手を後に組んで、こつこつ歩き廻りながら、「僕だって故なしに、胃洗滌《いせんでき》や尿の検査なんぞやらせやしないぜ。勿論問題と云うのは、そういう自企的な材料が、発見されなかった場合にあるのだよ」と鍵盤《キイ》の前で立ち止って、それを掌《てのひら》でグイと押し下げて云った。その行為は、異説の所在を暗示しているのであった。
「このとおりだよ。鐘鳴器《カリルロン》の演奏には、女性以上の体力が必要なんだ。簡単な讃詠《アンセム》でも三度も繰り返したら、たいていヘトヘトになるにきまってるよ。だから、あの当時音色がしだいに衰えて行ったけれども、たぶんその原因が、この辺にありゃしないかと思うのだ」
「すると、その疲労に失神
前へ 次へ
全700ページ中181ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング