いよいよ確定されてしまうと、法水には痛々しい疲労の色が現われ、もはや口を聴く気力さえ尽き果てたように思われた。しかし、考えようによっては、より以上の怪態《けたい》と思われる伸子の失神に、もう一度神経を酷使せねばならぬ義務が残っていた。その頃はもう日没が迫っていて、壮大な結構は幽暗《うすやみ》の中に没し去り、わずかに円華窓から入って来る微かな光のみが、冷たい空気の中で陰々と揺《ゆら》めいていた。その中で、時折翼のような影が過《よぎ》って行くけれども、たぶん大鴉《おおがらす》の群が、円華窓の外を掠《かす》めて、尖塔の振鐘《ピール》の上に戻って行くからであろう。
ところで伸子の状態についても、細叙の必要があると思う。伸子は丸形の廻転椅子に腰だけを残して、そこから下はやや左向きになり、上半身はそれと反対に、幾分|右方《みぎかた》に傾いていて、ガクリと背後にのけ反っている。その倒辺三角形に似た形を見ても、彼女は演奏中に、その姿のままで後方へ倒れたものであることは明らかだった。しかし、不思議な事には、全身にわたって鵜《う》の毛ほどの傷もなく、ただ床へ打ち当てた際に、出来たらしい皮下出血の跡が、わ
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