側を、尖塔に上る鉄梯子が過《よぎ》っているという一事のみであった。
 やがて、法水は私服に命じて戸外に立たしめ、自分は種々と工夫を凝らして鍵盤《キイ》を押し、何より根本の疑義であるところの倍音を証明しようとしたが、その実験はついに空しく終ってしまった。結局、鐘鳴器《カリリヨン》で奏し得る音階が、二オクターヴにすぎないということと、それに、先刻《さっき》聴いた倍音というのが、その上の音階であるという――二つが明らかにされたのみであった。かつて聖アレキセイ寺院の鐘声にも、これとよく似た妖怪的な現象が現われたことがあった。けれども、それは単なる機械学的な問題で、つまり振り鐘の順序にすぎなかったのである。ところが、今度はそれと異なって、第一に三十あまりの音階を決定している――換言すれば、物質構成の大法則であるところの鐘の質量に、そもそも根本の疑惑がこもっているのだ。それゆえ、詮じ詰めてゆくと、結局鐘の鋳造成分を否定するか、それとも、楽音を虚空から掴《つか》み上げた、精霊的な存在があったのではないか――と云うような、極端な結論に行き着いてしまうのも、やむを得ないのであった。こうして、倍音の神秘が
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