ずか後頭部に残されているのみだった。また中毒と思《おぼ》しい徴候も現われていない。両眼も※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《ひら》いているが、活気なく懶《ものう》そうに濁っていて、表情にも緊張がなく、それに、下|顎《あご》だけが開いているところと云い、どことなく悪心《おしん》とでも云ったら当るかもしれない、不快気な表情が残っているように思われた。全身にも、単純失神特有の徴候が現われていて、痙攣《けいれん》の跡もなく、綿のように弛緩しているけれども、不審な事には、仄《ほん》のり脂《あぶら》が浮いている鎧通しだけは、かなり固く握り締めていて、腕を上げて振ってみても、いっこうに掌から外れようとはしない。総体として失神の原因は、伸子の体内に伏在しているものと、思うよりほかにないのであった。法水は心中決するところがあったとみえて、伸子を抱き上げた私服に云った。
「本庁の鑑識医にそう云ってくれ給え。――第一、胃|洗滌《せんでき》をやるように。それから胃中の残留物と尿の検査する事と、婦人科的な観察だ。またもう一つは、全身の圧痛部と筋反射を調べる事なんだ」
そうして、伸子が階下に運ばれてしま
前へ
次へ
全700ページ中174ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング