クロード・ディグスビイを派遣して、既記の地に本邦|未曾有《みぞう》とも云う大西洋建築を起工せり。と云うは一つに、彼地にて娶《めと》りし仏蘭西《フランス》ブザンソンの人、テレーズ・シニヨレに餞《はなむ》ける引手箱なりと云う。すなわち、地域はサヴルーズ谷を模し、本館はテレーズの生家トレヴィーユ荘の城館を写し、もって懐郷の念を絶たんがためなりとぞ。さるにしても、このほど帰国の船中|蘭貢《ラングーン》において、テレーズが再帰熱にて死去したるは哀れとも云うべく、また、皮肉家大鳥文学博士がこの館を指し、中世堡楼の屋根までも剥いで黒死病《ペスト》死者を詰め込みしと伝えらるる、プロヴィンシア繞壁《ぎょうへき》模倣を種に、黒死館と嘲《あざけ》りしこそ可笑《おか》しと云うべし――。
[#ここで字下げ終わり]
検事が読み終った時、法水は外出着に着換えて再び現われた。が、またも椅子深く腰を埋めて、折から執拗に鳴り続ける、電話の鈴《ベル》に眉を顰《ひそ》めた。
「あれはたぶん熊城《くましろ》の督促だろうがね。死体は逃げっこないのだから、まずゆっくりするとしてだ。そこで、その後に起った三つの変死事件と、いまだに
前へ
次へ
全700ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング