」と法水は、初めて問題の一句を闡明《せんめい》する態度に出た。「あの一句は、ゲーテの『ファウスト』の中で、尨犬《むくいぬ》に化けたメフィストの魔力を破ろうと、あの全能博士が唱える呪文の中にある、勿論その時代を風靡《ふうび》した加勒底亜《カルデア》五芒星術の一文で、火精《ザラマンダー》・水精《ウンディネ》・風精《ジルフェ》・地精《コボルト》の四妖に呼び掛けているんだ。ところで、それを鎮子が分らないのを不審に思わないかい。だいたいこういった古風な家で、書架に必ず姿を現わすものと云えば、まず思弁学でヴォルテール、文学ではゲーテだ。ところが、そういった古典文学が、あの女には些細な感興も起さないんだ。それからもう一つ、あの一句には薄気味悪い意思表示が含まれているのだよ」
「それは……」
「第一に、連続殺人の暗示なんだ。犯人は、すでに甲冑武者の位置を変えて、それで殺人を宣言しているが、この方はもっと具体的だ。殺される人間の数とその方法が明らかに語られている。ところで、ファウストの呪文に現われる妖精の数が判ると、それがグイと胸を衝き上げてくるだろう。何故なら、旗太郎をはじめ四人の外人の中で、その一人
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