なんという不思議な女だろう」と露《あら》わに驚嘆の色を泛《うか》べて、「自分から好んで犯人の領域に近づきたがっているんだ」
「いや、被作虐者《マゾヒイスト》かもしれんよ」と法水は半身《はんみ》になって、暢気《のんき》そうに廻転椅子をギシギシ鳴らせていたが、「だいたい、呵責《かしゃく》と云うものには、得も云われぬ魅力があるそうじゃないか。その証拠にはセヴィゴラのナッケという尼僧だが、その女は宗教裁判の苛酷な審問の後で、転宗よりも、還俗《げんぞく》を望んだというのだからね」と云ってクルリと向きを変え、再び正視の姿勢に戻って云った。
「勿論久我鎮子は博識無比さ。しかし、あれは索引《インデックス》みたいな女なんだ。記憶の凝《かたま》りが将棋盤の格みたいに、正確な配列をしているにすぎない。そうだ、まさに正確無類だよ。だから、独創も発展性も糞もない。第一、ああいう文学に感覚を持てない女に、どうして、非凡な犯罪を計画するような空想力が生れよう」
「いったい、文学がこの殺人事件とどんな関係があるかね?」と検事が聴き咎《とが》めた。
「それが、あの|水精よ蜿くれ《ウンディヌス・ジッヒ ヴィンデン》――さ
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