れど、なんとなく私には、無機物を有機的に動かす、不思議な生体組織とでも云えるものが、この建物の中に隠されているような気がしてならないのです」
「それが、魔法書を焚いた理由ですよ」と法水は何事かを仄《ほの》めかしたが、「しかし、失われたものは再現するのみのことです。そうしてから改めて、貴女の数理哲学を伺うことにしましょう。それから、現在の財産関係と算哲博士が自殺した当時の状況ですが」とようやく黙示図の問題から離れて、次の質問に移ったが、その時鎮子は、法水を瞶《みつ》めたまま、腰を上げた。
「いいえ、それは執事の田郷さんの方が適任でございましょう。あの方はその際の発見者ですし、何より、この館ではリシュリュウ([#ここから割り注]ルイ十三世朝の僧正宰相[#ここで割り注終わり])と申してよろしいのですから」そうして、扉の方へ二、三歩歩んだ所で立ち止り、屹然《きっ》と法水を振り向いて云った。
「法水さん、与えられたものをとることにも、高尚な精神が必要ですわ。ですから、それを忘れた者には、後日必ず悔ゆる時機がまいりましょう」
 鎮子の姿が扉の向うに消えてしまうと、論争一過後の室《しつ》は、ちょうど
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