lの矜恃《きょうじ》の中に動いている絶対の世界が、あるいは、世にもグロテスクな、この爆発を起させたかもしれないのである。そうして、その意志表示が、|吾も人の子なり《ホモ・スム》――の一句に相違ないのだけれども、仮りにもしそれが偽作だとすれば、今度は押鐘津多子を、この狂文の作者に推定しなければならない。
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 二、犯罪現象としての押鐘津多子に――[#「二、犯罪現象としての押鐘津多子に――」は太字]。
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すでに明白なのは、神意審問会の際張出縁に動いていた人影と、最初乾板を拾いに来た園芸倉庫からの靴跡、それに薬物室の闖入者《ちんにゅうしゃ》――と以上の三人が、算哲を斃《たお》し、あの夜ダンネベルグ夫人の室に侵入した人物と同一人だという事だった。そうすると、当然問題が、ダンネベルグ事件に一括されて、それには、否定すべからざる暗影を持つ押鐘津多子が、しかも、動機中の動機とも云うべきものを引っさげて、登場して来るのだった。勿論、確実な結論として律し得ない限りは、それ等の推測も、無の中の一突起にすぎないではあろうが。
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 再び旧《もと》の室《へや》に戻って、椅子の上に落ち着くと、法水は憮然《ぶぜん》と顎《あご》を撫《な》でながら驚くべき言葉を吐いた。
「実は、算哲の屍骸の中に、二つの狂暴な意志表示が含まれているのだよ。一度はディグスビイの呪詛のために殺され[#「一度はディグスビイの呪詛のために殺され」に傍点]、そうして蘇生したところを[#「そうして蘇生したところを」に傍点]、今度はファウスト博士が止めを刺したのだ[#「今度はファウスト博士が止めを刺したのだ」に傍点]。つまり、あれは二重の殺人なんだよ」
「なに、二重の殺人※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と熊城が驚きのあまりに問い返すと、法水は|大階段の裏《ビハインド・ステイアス》――を、実に三度転倒させて、いよいよ最終の帰結点を明らかにした。
「そうじゃないか熊城君、有名なランジイ([#ここから割り注]仏蘭西(フランス)の暗号解読家[#ここで割り注終わり])の言葉に、秘密記法《クリプトメニツェ》の最終は同字整理《シラブル・アジャストメント》にあり――というのがあるからね。そこで、その同字整理《シラブル・アジャストメント》を|紋章のない石《クレストレッス・ストーン》に試みて、sとs、reとle、stとstを除いてみた。すると、それが Cone《コーン》(松毬《まつかさ》)という一字に、変ってしまったのだよ。ところが、その松毬《コーン》というのが、寝台の天蓋にある頂飾《たてばな》にあって、それがまた、薄気味悪い道化師《クラウン》なんだがね」とそれから帷幕《とばり》の中に入って、蒲団《マット》の上に、卓子《テーブル》や椅子を一つ一つ積み重ねていった。そうして、最後に立箪笥《キャビネット》が載せられたとき、検事と熊城はハッとして息を嚥《の》んだ。と云うのは、松毬《コーン》の形をしたその頂飾《たてばな》が口を開いて、そこからサラサラと、白い粉末が溢《こぼ》れ出たからであった。すると、法水の舌が、黒死館の過去を暗澹《あんたん》とさせたところの、三つの変死事件に触れていった。
「これが、暗黒の神秘――黒死館の悪霊さ。それを修辞学的《レトリカル》に云えば、さしずめ中世異端の弄技物とでも云うところだろうがね。しかし、その装置の内容たるや、過去の三変死事件が、それぞれ同衾《どうきん》中に起ったのを考えれば判るだろう。つまり、二人以上の重量が法度《はっと》で、それが加わると、松毬《コーン》の頂飾が開いて、この粉末が溢れ出すのだよ。それも、以前マリア・アンナ朝時代では、媚薬などを入れたものだが、この寝台では桃花木《マホガニー》の貞操帯になっているのだ。と云うのは、この粉末が確かストラモニヒナス(註)――ほとんど稀集に等しい植物毒だろうと思うからだよ。それが鼻粘膜に触れると、狂暴な幻覚を起すのだから、最初明治二十九年に伝次郎事件、それから三十五年に筆子事件――と二つの他殺事件を起して、ついに最後の算哲を、人形を抱いたあの日に斃《たお》してしまったのだ。つまり、このディグスビイの呪詛《じゅそ》と云うのは、『|死の舞踏《トーテン・タンツ》』に記されている、|奢那教徒は地獄の底に横たわらん《ジャイニスツ・アンダーライ・ビロウ・インフェルノ》――の本体なんだよ」

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(註)後日法水は、ストラモニヒナスがついに伝説以上のものだったのに、驚いたと云っている。それは、ゲオルヒ・バルティシュ(十六世紀ケーニヒスブルクの薬学者)の著述の中に記されているのみで、近世になってからは、一八九五年にフィッシュと云って、印度大麻の栽培を奨励した、独領
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