トあったのだよ。しかし、僕も最初は、誤った観察をしていた。あれは qlikjyikkkjubi と、全部で十四文字になる。すると、二文字を一字とすれば、七文字の単語が出来上って、ik と続いた部分が二個所もあるのだから、それがeとかsとかの利字《ききじ》を暗示するように思われる。けれども、単語一つでは、恐らく意味をなさぬだろうと思って、間もなくその考えを捨ててしまった。
 そこで、次に僕は、その全句を二つないし三つの小節に分けようと試みたのだ。そして、それには訳もなく成功することが出来たのだよ。何故なら、中央にkが三つ並んでいる部分があるだろう。その二番目と三番目との間を截《た》ち割れば、当然二つの小節に、不自然でなく分けることが出来るからなんだ。ねえ熊城君、同じ文字が三つ続くなんて、そんな道理がけっしてあろう気遣いはないし、また、重複《ダブ》った文字から始まる単語というのは、ホンの数えるほどしかないからだよ。で、そうしてから……」
 とディグスビイが書き残した不思議な文章の一句一句に、法水は次のような番号を付けていった。

[#ここから2字下げ]
[#ここから横組み]エホバ神は半陰陽《ふたなり》なりき。[#「エホバ神は半陰陽《ふたなり》なりき。」に傍線] 初めに自《みずか》らいとなみて、双生児《ふたご》を生み給えり。[#「初めに自《みずか》らいとなみて、双生児《ふたご》を生み給えり。」に傍線] 最初に胎《はら》より出でしは、女にしてエヴと名付け、次なるは男にしてアダムと名付けたり。[#「最初に胎《はら》より出でしは、女にしてエヴと名付け、次なるは男にしてアダムと名付けたり。」に傍線] 然るに、アダムは陽に向う時、臍《ほぞ》より上は陽に従いて背後に影をなせども、臍より下は陽に逆いて前方に影を落せり。[#「然るに、アダムは陽に向う時、臍《ほぞ》より上は陽に従いて背後に影をなせども、臍より下は陽に逆いて前方に影を落せり。」に傍線] 神此の不思議を見ていたく驚き、アダムを畏れて自らが子となし給いしも、エヴは常人と異ならざれば婢となし、[#「神此の不思議を見ていたく驚き、アダムを畏れて自らが子となし給いしも、エヴは常人と異ならざれば婢となし、」に傍線] さてエヴといとなみしに、エヴ姙《みごも》りて女児を生みて死せり。[#「さてエヴといとなみしに、エヴ姙《みごも》りて女児を生みて死せり。」に傍線] 神その女児を下界に降して人の母となさしめ給いき。[#「神その女児を下界に降して人の母となさしめ給いき。」に傍線][#ここで横組み終わり][#底本では区切りごとに1〜7の数字が傍線の下に記されている]
[#ここで字下げ終わり]

「まずこんな風にして、僕はこの文章を七節に分けてみたのだ。そして、それぞれの小節から、そこに潜んでいる解語の暗示を、探り出そうとしたのだった。ところで、文中の第一節だが、僕はこの句を人間創造という意味に解釈した。云わばすべての物の創《はじ》め――例えて云うと伊呂波《いろは》のい、ABCのAなのだ。それから第二節――これが一番重要な点なんだよ。ねえ熊城君、それが双生児《ふたご》を生み給えり、――なんだろう。それで双生児《ふたご》と云えば、さしずめ tt とか ff とか※[#AE小文字、1−9−60]とか云うような、文字的な解釈を誰しも想像したくなるものだ。ところが、この場合はすこぶる表象的な意味があって、それが、母胎内における双生児《ふたご》の形を指しているのだったよ。ところが熊城君、だいたい双生児というものが、母の子宮内でどんな恰好をしているか、恐らく知らぬはずはないと思うがね。必ず一人が逆さになっていて、一人の頭ともう一人の足といった具合で、つまり、ちょうどトランプの人物模様みたいに、頭尾相同じという恰好なんだよ。そこで、pとdとを抱き合わせて見給え。アルファベットの中で、てっきり双生児《ふたご》の形が出来るじゃないか、そして、それに第一節の解釈を加えれば、当然pかdかそのいずれかが、アルファベットのaの位置を占めているに違いないのだ。しかし、まだそれだけでは、要するに別個の暗号を作るにすぎないし、またqとbでも同じようだけれど、それでは解答が、楔形文字《キュネイフォルム》か波斯文字《ネスキー》みたいになってしまうのだよ」
 それから一息いれた体《てい》で、冷たくなった残りの紅茶を不味《まず》そうに流し入れてから、法水は一気に語り続けた。
「ところで、それがすんで第三節以降になると、初めてそこで、dとpとが区分されるのだ。つまり、最初に生まれたのが女で次が男――なんだから、頭を下に向けているdがエヴで、pがアダムに当る訳だろう。それから、第五節にある子と云う語《ことば》と、七節の母という語を、それぞれに子音または母
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