機があり、色々な関節を動かす細い真鍮棒が後光のような放射線を作っていて、その間に、弾条《ぜんまい》を巻く突起と制動機とが見えた。続いて熊城は、人形の全身を嗅《か》ぎ廻ったり、拡大鏡で指紋や指型を探しはじめたが、何一つ彼の神経に触れたものはなかったらしい。法水はそれが済むのを待って、
「とにかく、人形の性能は多寡《たか》の知れたものだよ。歩き、停まり、手を振り、物を握って離す――それだけの事だ。仮令《たとえ》この室から出たにしても、あの創紋を彫るなどとはとんでもない妄想さ。そろそろダンネベルグ夫人の筆跡も幻覚に近くなったかな」と思う壺らしい結論を云ったけれども、しかし彼の心中には、薄れ行った人形の影に代って、とうてい拭い去ることの出来ない疑問が残されてしまった。法水は続いて、
「だが熊城君、犯人は何故、人形が鍵を下したように見せなければならなかったのだろうね。もっとも、事件にグイグイ神秘を重ねてゆこうとしたのか、それとも、自分の優越を誇りたいためでもあったかもしれない。しかし、人形の神秘を強調するのだとしたら、かえってそんな小細工をやるよりも、いっそ扉《ドア》を開け放しにして、人形の指に洋橙《オレンジ》の汁でも附けておいた方が効果的じゃないか。ああ、犯人はどうして僕に、糸と人形の[#「糸と人形の」に傍点]技巧《トリック》を土産に置いて行ったのだろう[#「を土産に置いて行ったのだろう」に傍点]?」としばらく懐疑に悶《もだ》えるような表情をしていたが、「とにかく、人形を動かして見ることにしよう」と云って眼の光を消した。
やがて、人形は非常に緩慢な速度で、特有の機械的な無器用な恰好で歩き出した。ところが、そのコトリと踏む一歩ごとに、リリリーン、リリリーンと、囁《ささや》くような美しい顫音《せんおん》が響いてきたのである。それはまさしく金属線の震動音で、人形のどこかにそういう装置があって、それが体腔の空洞で共鳴されたものに違いなかった。こうして、法水の推理によって、人形を裁断する機微が紙一枚の際《きわ》どさに残されたけれども、今聴いた音響こそは、まさしくそれを左右する鍵のように思われた。この重大な発見を最後に、三人は人形の室《へや》を出て行ったのであった。
最初は、続いて階下の薬物室を調べるような法水の口吻《くちぶり》だったが、彼はにわかに予定を変えて、古式具足の列《なら
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