ント》アレキセイ寺院のジナイーダの室において贏《か》ち得たところの成功が、はたして今回も、繰り返されるであろうかどうか――それがすこぶる危ぶまれた。と云うのは、その古風な柄の長い鍵は、把手《ノッブ》から遙かに突出していて、前回の技巧を再現することがほとんど望まれないからであった。二人が見戍《みまも》っているうちに、法水は長い糸を用意させて、それを外側から鍵孔《かぎあな》を潜《くぐ》らせ、最初鍵の輪形の左側を巻いてから、続いて下から掬《すく》って右側を絡め、今度は上の方から輪形の左の根元に引っ掛けて、余りを検事の胴に繞《めぐ》らし、その先を再び鍵穴を通して廊下側に垂らした。そうしてから、
「まず支倉君を人形に仮定して、それが窓際から歩いて来たものとしよう。しかし、それ以前に犯人は、最初人形を置く位置について、正確な測定を遂げねばならなかった。何にしても、扉の閾《しきい》の際《きわ》で、左足が停まるように定める必要があったのだ。何故なら、左足がその位置で停まると、続いて右足が動き出しても、それが中途で閾に逼《つか》えてしまうだろう。だから、後半分の余力が、その足を軸に廻転を起して、人形の左足がしだいに後退《あとずさ》りして行く。そして、完全に横向きになると、今度は扉と平行に進んで行くからだよ」
 それから、熊城には扉の外で二本の糸を引かせ、検事を壁の人形に向けて歩かせた。そうしているうちに、扉《ドア》の前を過ぎて鍵が後方になると、法水はその方の糸をグイと熊城に引かせた。すると、検事の身体が張りきった糸を押して行くので、輪形の右側が引かれて、みるみる鍵が廻転してゆく。そして、掛金が下りてしまうと同時に、糸は鍵の側《かたわら》でプツリと切れてしまったのだ。やがて、熊城は二本の糸を手にして現われたが、彼はせつなそうな溜息を吐いて、
「法水君、君はなんという不思議な男だろう」
「けれども、はたして人形がこの室から出たかどうか、それを明白に証明するものはない。あの一回余計の足跡だっても、まだまだ僕の考察だけでは足りないと思うよ」と法水は、最後の駄目を押して、それから、衣裳の背後にあるホックを外して観音開きを開き、体内の機械装置を覗き込んだ。それは、数十個の時計を集めたほどに精巧をきわめたものだった。幾つとなく大小様々な歯車が並び重なっている間に、数段にも自働的に作用する複雑な方舵
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