サうしているうちに、熊城は眠りから醒めたような形で、慌《あわ》てて莨《たばこ》の灰を落したが、
「法水君、問題は、これで綺麗《きれい》さっぱり割り切れてしまったのだ。もう猶予《ゆうよ》するところはない。算哲の墓※[#「穴かんむり/石」、428−1]《ぼこう》を発掘するんだ」
「いや、僕はあくまで正統性《オーソドキシイ》を護ろう」と法水は異様な情熱を罩《こ》めて叫んだ。「あの疑心暗鬼に惑わされて、算哲の生存を信ずると云うのなら、君は勝手に降霊会でも開き給え。僕は|紋章のない石《クレストレッス・ストーン》――を見つけて、人間様の殺人鬼と闘うんだ」
それから壁炉《へきろ》の積石に刻まれている紋章の一つ一つを辿《たど》ってゆくと、はたして右側の積石の中に、それらしいものを発見した。そして、法水が試みにそれを押すと、奇妙なことには、その部分が指の行くがままに落ち窪んでゆく。すると、それと同時に、その一段の積石が音もなく後退《あとずさ》りを始めて、やがて、その跡の床に、パックリと四角の闇が開いた。坑道――ディグスビイの酷烈な呪詛《じゅそ》の意志を罩《こ》めたこの一道の闇は、壁間を縫《ぬ》い階層の間隙を歩いて、何処《いずこ》へ辿りつくのだろうか。鐘鳴器《カリルロン》室か礼拝堂かあるいは殯室《モーチュアリー・ルーム》の中にか、それとも四通八達の岐路に分れて……。
二、伸子よ、運命の星の汝の胸に
足許には小さな階段が一つあって、そこから漆《うるし》のような闇が覗《のぞ》いている。永年外気に触れたことのない陰湿な空気が、さながら屍温のようなぬくもりと、一種名状の出来ぬ黴《かび》臭さとを伴って、ドロリと流れ出てくる――文字どおりの鬼気だった。法水等三人は、さっそく懐中電燈を点して、肩を狭めながら階段を下りて行った。すると、そこは半畳敷ほどの板敷になっていて、そこまで来ると、今までは光線の加減で見えなかったスリッパの跡が、床に幾つとなく発見された。しかし、その中にはきわめて新しい一つがあって、それが一直線に階段の上まで続いているけれども、その小判形の痕《あと》には、たぶん静かに歩いたせいでもあろうか、前後の特徴さえも残っていないのである。したがって、はたしてそれが階段から下りて来たものか、それとも、奥の坑道から辿り来ったものか、勿論その識別は不可能なのであった。その時、周囲
前へ
次へ
全350ページ中314ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング