sドライファハ・アウスゲデーンテン・グレーセン》から救っているじゃありませんか。いや、僕は率直に云いましょう。その時寝室から出た貴方は、物音を聴いて伸子の側に行き、落ちていた『|予言の薫烟《ヴァイスザーゲント・ラウフ》』を旧《もと》の位置に押し込んでやりました。そして、室から去ってゆくところをダンネベルグ夫人に認められたので、それが、算哲の死後秘密の関係にあった夫人を激怒させたのでした。しかし、一方持分相続に関する禁制があるので、さすがに夫人も、それを明らさまにはいい得なかったのですよ」
その間レヴェズは、拳《こぶし》に組んだ両手を膝の上に置いたままで、凝然《じっ》と聴き入っていた。が、相手の言葉が終ってからも、その静観的な表情は変らなかった。彼は冷たく云い放った。
「なるほど、動機はそれで十分。しかし、この際なにより貴方に必要なのは、僅《た》った一つでも、完全な刑法的意義です。つまり、今度は犯罪現象に、貴方の闡明《せんめい》を要求したいのですよ。法水さん、あの鎖の輪のどこに儂《わし》の顔を証明出来ますかな。いかにも儂には、あの『|予言の薫烟《ヴァイスザーゲント・ラウフ》』が永世の記憶となるでしょう。また、虹を送って、儂の心を伸子に知ってもらおうとしました。だが、とうていそれだけでは、儂とメフィストとの契約《パクト》が……。いや、恐らくいまに儂は、貴方の衒学《ペダントリー》さに嘔吐《へど》を吐きかけるに至るでしょう」
「勿論ですレヴェズさん、しかし貴方の詩作が、混沌の中から僕に光を与えてくれました。実は、この事件の終局《フィナーレ》と云うのが、あの虹に現われている、ファウスト博士の総懺悔《ゲネラル・バイヒテ》にあったのです。いや、率直に云いましょう。勿論あの七色は、詩でも観想でもなく、実は、兇悪無残な焼刃の輝きだったのです。ねえレヴェズさん、貴方は、クリヴォフ夫人を、あの虹の濛気によって狙撃したのでしたね」と法水は突如凄じい形相になって、狂ったような言葉を吐いた。その瞬間、レヴェズは化石したように硬くなってしまった。突然頭上に閃《ひらめ》き落ちてきたものは、恐らくレヴェズにとって、それまで想像もつかぬほど意外なものであったに相違ない。眩惑《げんわく》、驚愕《きょうがく》――勿論その一|刹那《せつな》に、レヴェズが知性のすべてを失ってしまったことは云うまでもないので
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