る。ところが、そうして相手が自失した有様に、むしろ法水は、残忍な反応を感じたらしかった。彼は、手中の生餌《いきえ》を弄《もてあそ》ぶような態度で、ゆったり口を開いた。
「事実あの虹は、皮肉な嘲笑的な怪物でしたよ。ところで貴方は、東《オストロ》ゴートの王テオドリッヒを……。あのラヴェンナ城塞の悲劇を御存じでしょうか」
「フム、最初射損じても、テオドリッヒには二の矢に等しい短剣があったのです。だがしかしだ、儂《わし》は、苦行者でも殉教者でもない。むしろそういう浄罪|輪廻《りんね》の思想は、儂《わし》にではなくファウスト博士に云ってもらいたいものだ」とレヴェズが声を慄《ふる》わせ、満面に憎悪の色を漲《みなぎ》らしたと云うのは、そのラヴェンナ城の悲劇に、クリヴォフ事件を髣髴《ほうふつ》とさせる場面《シーン》があったからだ。
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(註)紀元後四九三年三月、西|羅馬《ローマ》の摂政オドワカルは、東ゴートの王テオドリッヒとの戦いに敗れて、ラヴェンナの城に籠城し、ついに和を乞うた。その和約の席上で、テオドリッヒは家臣に命じ、ハイデクルッグの弓でオドワカルを狙わせたのであったが、弦が緩んでいて、目的を果せず、やむなく剣をもって刺殺したのだった。
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「しかし、あの虹の告げ口だけは、どうすることも出来ません」と法水はさらに急追を休めず、凄気《せいき》を双眼に泛《うか》べて云い放った。「しかし、貴方がオドワカル殺しの故智を学ばれたのは、さすがだったと思います、御承知でしょうが、テオドリッヒの用いた弓の弦と云うのは、※[#「亠/中/冖/石/木」、第3水準1−86−13]※[#「くさかんむり/夷」、第3水準1−90−83]木《ビクスクラエ》の繊維で編んだ、ハイデクルッグ王([#ここから割り注]北独逸ゲルマン族の一族長[#ここで割り注終わり])からの、虜獲《りょかく》品だったのですからね。ところが、その※[#「亠/中/冖/石/木」、第3水準1−86−13]※[#「くさかんむり/夷」、第3水準1−90−83]木《ビクスクラエ》という植物繊維には、温度によって組織が伸縮するという特性があるのです。したがって、寒冷の北|独逸《ドイツ》から温暖の中部|伊太利《イタリー》に来たために、さしも北方蛮族の殺人具も、たちまちその怖るべき性能を失ってしまったのでし
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