なかった。
「判らなければ、僕の方から云おう。犯人が、池の水で血に染んだ手を洗ったのだが、その時附近に水浸しになっていた木精蓮《レセタばす》の一本があったとしたらどうだろう。勿論血の臭気を慕って蛭が群集する事は云う迄もないが、それから間もなく、犯人は浮遊物を流すために[#「犯人は浮遊物を流すために」に傍点]、水門の堰板を開いて水を流したのだ[#「水門の堰板を開いて水を流したのだ」に傍点]。すると、水面が下っただけ、木精蓮は空気中に突出する訳だろう。だから、朝になって花が閉じた時に、残った蛭が花弁に包まれてしまったのだ。だがそれは要するに、偶然現われた現象に過ぎない。堰板を開いた、犯人の真実とする目的と云うのは、玄白堂内の足跡を消すのにあったのだよ」
ああ法水は、その水流から、何を掴み上げたのだろうか?
「判らなくては困るね。犯人でなくても、誰しも水準の異なった二つの池があれば、それを利用するだろうからね。つまり、此の池の水面を僅か程下げてから、玄白堂の右手にある、池と池溝との間の堰を切ったのだ。すると、池の水が水面の低い池溝の中へ一度に押し出すので、岩の尽きた堂の左側に来ると、ドッと
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