の像と左右に四天王が二体宛載っている。堂内で採集した指紋には、勿論推理を展開せしめるものがなかった。
「何処を見ても、埃がないですね」と法水が、怪訝そうに空闥に云うと、
「縁日の前日が掃除日でして、未だ三日許りしか経ちませんのですから、足型が残ると云う程の埃はありません。その時、此の筒提灯の中も掃除しますので」
そう云って、空闥が両手に提げて来たのは、伸ばした全長が人間の背丈程もあって、鉄板製の口径が七寸にも及ぶ、真紅の筒提灯が二つ。蝋燭は二つ共に、鉄芯が現われる間際まで燃えていて、其処で消したらしい。法水は、此の提灯から結局何も得る所はなかった。護摩壇前の経机には、右端に般若心経が積み重なっていて、胎龍が唱えたらしい秘密三昧即仏念誦の写本が、中央に拡げられてある。杵鈴を錘に置いて開かれている面と云うのは、「五障百六十心等三重赤色妄執火」と云う一節だった。
「この一巻を始めから唱えていたとすると、此処迄に何分位|費《かか》りますね?」
「左様、二、三十分ですかな」と空闥が答えた。
「すると、八時から始めたとして、八時三十分かな※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」検事が解った様な顔をす
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