感嘆符疑問符、1−8−78] すると、一端戻って来てから履いたのが日和なんですね」熊城は吃驚《びっくり》して叫んだ。てっきり犯人の足跡と呑み込んで、深く訊しもしなかった雪駄の跡が住持のものだとすると、一体犯人は、如何なる方法に依って足跡を消したのだろうか? それとも、接近せずに目的を果し得る兇器があったのだろうか? 然し、法水は更に動じた気色を見せなかった。
「ハハハハ熊城君、多分この矛盾は、間もなく判る筈だよ。それから奥さん、その時御主人の様子に、何か平生と変った点があったのをお気付きになりませんでしたか?」
「ハァ、別に最近の主人と変ったような所は御座いませんでしたが、どうした訳か、空闥さんの日和を履いてしまったので御座います。それから十五分程経って、慈昶が戻ったらしい咳払いを聴きましたけれども、空闥さんはその時、本堂脇の室で檀家の者と葬儀の相談をしていた様子で御座いました。主人は二、三日来咽喉を痛めて居りますので、黙祷と見えて読経の声も聴こえず、夕食にも戻りませんでした。ですから、毎夜の例で十時頃に、私が池の方へ散歩に参りました途中、薬師堂の中で見掛けましたのが、最後の姿だったの
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