堰tの通路に這い寝そべっているのは、なんぼなんでも並々のことではないからだ。
 やがて僕は、主命もだしがたく、草叢に近寄っていった。そうして、怪人 Ram《ラム》 Chand《チャンド》 君の出現ということになったのである。
 そこで断っておくが、ジェソップ氏は印度《インド》語が喋《しゃべ》れない。僕も、Indian《インディアン》 Press《プレッス》 Reader《リーダー》 の初級くらいのところ、けだし僕を引っ張り役にしたのも、理由がその辺にあるらしい。が、僕とはいえ……ペラペラやられたら冷汗もののところが、運よく、その青年は正統の英語が喋れた。
 かれはすぐ飯を食わすというと懶《だ》るそうに起きあがり、のそのそと僕のあとを跟《つ》いてきたのである。
 それから、僕が日本語でやる生擒《いけどり》の報告中、チャンドを見るジェソップ氏の眼に、失望の色が濃くなってきた。
 服装《なり》は汚い、それも泥だらけで芬々《ふんぷん》たる臭気だ。が、顔は、印度アールヤン族の正系ともいう、どう見ても、サンブルプールあたりからのダイヤモンド鉱夫ではない。しかし、人は見かけによらぬという――おそらく
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