Wェソップ氏の腹も、同じだったろうと思われる。
 とにかく、チャンドの気品は、絶品というに近かった。たとえて云えば、キップリングの[#ここから横組み]“Naulakha《ナウラーカ》”[#ここで横組み終わり]に出てくるラホールの王子――といっても、僕自身には褒《ほ》め過ぎとは思えない。
 しかし、そのチャンドにはなんの用もないのだ。といって、ブラブラさせては不安がるだろうというので、おもにジェソップ氏の身廻りの用をさせていた。がその間、僕には大命が下っていた。それは、チャンドをそれとなく探ることで、ジェソップ氏は、またまたダイヤならずば黄玉石《トパーズ》くらいの夢を見ていたらしい。
 しかし僕は、いつかチャンドの別の方面に、興味を持つようになった。それは、ジェソップ氏に対しても決して大人《サヒーブ》とは云わないこと、印度人が、自らを卑くして駱駝《らくだ》のように膝を折る、あれがチャンドの雰囲気にはないのだ。
 やがて、イギリス嫌いの僕は、この青年が好きになった。実際ジェソップ氏のような、ズボラで人の良い英人はいないのだから、僕には、クライヴもヘースチングも村井長庵と大差ないのだ。そんな
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