わ》を引くと、絞め殺されるような音を立てる。陽は落ちんとして、マハナディ三角洲《デルタ》はくらい靄《もや》のしたにあった。
するとそれから、騾《ら》をつないであるアカシヤのしたまで来ると、とたんに、そばの草叢《くさむら》がガサガサっと動いた。
(眼鏡蛇《コブラ》かな?)
それは、慄《ぞ》っとするのと飛び退くのと、同時だった。しかしジェソップ氏は、からだをかがめ顔を地にすれすれにして、とおく残光が、黄麻畑の果にただようあたりに透《すか》した。
間もなく彼は、手の泥を払いながら顫《ふる》える私をながめ、
「ありゃ、君、人間の手だよ」
と、嗤《わら》うのだった。
そこで、|Mr. O'Grie《ミスター・オーグリー》 が安堵したことは云うまでもない。
しかしジェソップ氏は、顎を撫でながらじっと考え込んでいる。僕は、その腹芸を怪訝《けげん》に思い、とにかく、騾を引いてきてお乗んなさいとばかりにすると、
「君、ちょっとあの男を呼んで来てくれんかね」
と云うのだ。
「でも……何でです?」
私は、なにがなんでも得体が分らないので、躊躇するとジェソップ氏は手をあげ、
「いや君は分らんだろ
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