轤チたようになり、観念の色がなに事かを決めようとしました。
 とその時、通りのどこかでワアッと喚声があがると、数発の、銃声とともにおそろしい音が部屋に起りました。窓|硝子《ガラス》が木葉《こっぱ》微塵となり、どこか、蒲団《マット》のしたからキナ臭い匂いが立ちのぼってきます。
 その瞬間、せっかくの機会《チャンス》がぶち壊れてしまったばかりか、ミス・ヘミングウェーは、恐怖に駆られワアッと泣きながら、地下室の酒倉へ逃げ込んでしまったのです。
 つまりこれは、カリーの女神の嘉《よみ》し給わなかったことでしょうか。それからも、ミス・ヘミングウェーは相変らずの態度で、おお機会《チャンス》と、叫ばせられたのも何度かありました。が、私には、印度教徒の戒律を思わぬわけには、ゆきません。最初の夜の、神意的破壊的の銃声が、もし啓示としたならばこの次はどうでしょう。
 ああ、O'Grie《オーグリー》、煩悩《ぼんのう》はたけり、信仰は脅かす。精進潔斎《しょうじんけっさい》のその日に、女人《にょにん》を得ようとしたのは、返す返すも悲しいめぐり合わせでした。
 私はそれから、来る日来る日うつらと送りましたが、しか
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