し、希望はまだ九日目にあります。精進明けの、その日には何事も自由です。そして雨も、その前々夜にはからっと上がり、町にはすでに火薬の匂いもありません。朝の風が、黍《きび》畑をひたす出水のうえを渡り、湿原で鳴く、印度|犀《さい》の声を手近のように送ってきます。ヘミングウェー嬢は、この朝|高台公園《ハイ・パーク》の遊歩場へゆき、八時頃には、木蔭を縫う馬蹄の響が聴えてきました。
そこで私は、とって降した彼女の手をかるく握りますと、どうでしょう、そのうえにピシリと鞭が降りました。
ああ、私はとたんに自己を失い……思わぬ変り方、あまりな恥辱にそのまま面《おもて》を伏せ、ホテルには入らず一目散に駈け出しました。
それからの放浪です。
私はつくづく、祭、祭に縛られる印度《インド》民族が厭になり、と云って、遠い祖先の収穫をいのる声がふり※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]《もぎ》ろうとしてもどうしても離れないのです。おお、O'Grie《オーグリー》、なに事にも印度民族はこのディレンマに困《くる》しめられます。信教と、民族発展とに背反するものを持つ……。
おお、O'Grie《オーグリー》
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