ェっている姿は、だんだん心も獣のようなそれと同じになるのではないでしょうか。
 私も、自分ながら、理性を失わんとしているのが分ります。やがて、暗い空がいっそう暗くなり、雨脚も消え、煮られるような夜となりました。
 ところが、その夜ヘミングウェー嬢に、神経痛の発作が起りました。前年、ポロの競技中落馬が原因で、その後は、暑さ寒さにつれ、右肩が痛むのです。それでパドミーニと交代に、患部の湿布をかえておりました。甲斐甲斐しく、腕まくりしてギュッとタオルを絞る、すべてが、われながら驚くほどマメ[#「マメ」に傍点]だったのです。とその時、通りをザッザッっと、靴音でない一群が通ってゆく。
「アッ、あれ、きっと何だわ」
「なるほど」
「あらッ、私まだなんにも云ってないのに……」
 私は、ときどき失敗をやってはぎゅうぎゅうな目に逢わされ、それが久しく外道《げどう》的な快楽となっているのです。いま私は、右手でタオルを抑えながら、左手は、ミス・ヘミングウェーの莨《たばこ》に灰受けを捧げている。
 ああ、いかに場合とはいえブリスコーの生徒が、落ちたにも百面相とはなったものです。
「ああ、そうか」
 私は、ポン
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