ヘ居りません」
「ああ、なんだ、チャンドさんか」
しかし私は、爽やかな、処女を粧《いろど》るさまざまな香りに、こう隣ったことを、たいへん有難く思いました。
とやがて、
「チャンドさん」
と羞《はじ》らったような声で、
「ちょっと、あんたにお願いがあるんだけど、……実はパドミーニがいないんで、お願いするんだけど……、そこにある、三角海綿《ルーファ》をここへ持ってきてくれない?」
とたんに、私は、ぱちぱちっと瞬きました。ゆらゆら、鍵穴を洩れる湯気が、肢体のように妖《あや》しく見えます。
「でも……」と、やっと返辞はしたが、子供のような答えです。すると、ヘミングウェー嬢は、
「アラ、厭なの。じゃ、何かそこでしていんじゃない? 抽斗《ひきだし》や、下着入れを覗いているんだったら、今のうちに蔵《しま》うことよ……」
やがて私は、パドミーニが出しわすれていた三角スポンジを手に、把手《ノッブ》をやんわりとひねっていました。が、実のところは、動作に現われているような、そんな落着きはないのです。
(なにを……ミス・ヘミングウェーのこれは、意味するのだろう。処女が、娘の媚態ともいう羞恥心を捨てて
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