ワで、自分に、浴室に入れとは、戯れだけと云えないことだ。)
 と、妙な自負心に、私はからだ中浮いてしまったように……ああ、|Mr. O'Grie《ミスター・オーグリー》[#「Mr. O'Grie」は底本では「Mr. O,Grie」]、嗤《わら》いますね。が、それも、あなたはミス・ヘミングウェーを知らないからです。
 つぶらな瞳《ひとみ》、弾力のあるふっくらとした頬《ほほ》、顔もからだも、ほどよく締っていて、弾《はず》みだしそうです。
 神品ですよ。触れようとしても出来ぬものはことごとく神品です。
 私は……だが、いかなる場合でも、ブリスコーの生徒でした。
「じゃ、ここへ置きますから」
「そう。有難う。でも、ちょっとの間《ま》なら、ここにいてもいいわ」
 私の、そのときの驚きは何ものに例えようもありません。しかし、ミス・ヘミングウェーは、続けさまに云うのです。
「どう私、頭のほうもそう悪かァないでしょう。湯気で、あんたの眼鏡が曇って、なにも見えないのを知ってるんだから。見えて? ……私が、いま、どんなことをしているか」
 と、はげしい湯の音がして飛沫《しぶき》がかかると、淡紅色《ときいろ》
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