っているのではないか――そうした怖れを浸々と感ずるほどに、この劇場は、既に風間の魂を奪い、彼の望みを、最後の一滴までも呑み尽してしまったのであった。
然し、何より読者諸君は、法水が戯曲「ハムレットの寵妃《クルチザン》」を綴ったばかりでなく、主役ハムレットを演ずる、俳優として出現したのに驚かれるであろう。けれども、彼の中世史学に対する造詣《ぞうけい》を知るものには、何時か好む戯詩として、斯うした作品が生まれるであろう事は予期していたに相違ない。
その一篇は、「黒死館殺人事件」を終って、暫く閉地に暮しているうち、作られたものだが、もともとは、女優|陶孔雀《すえくじゃく》に捧げられた讃詩なのである。
現に孔雀は、劇中のホレイショに扮しているのだが、この新作《ニュー・ヴァージョン》では、ホレイショが女性であって、ヴィッテンベルヒに遊学中、ハムレットと恋に落ちた娼婦と云う事になっている。
つまりその娼婦を、男装させて連れ帰ったと云うのが、悲劇の素因となり、全篇を通じて、色あでやかな宮廷生活が描写されて行く。そして、ホレイショはまず、嫉妬のためにオフェリヤを殺す。しかも一方では、王クローデ
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