\郎の妻、幡江の母暁子は、既に二十余年も新劇のために闘い続けている。そのためか、暁子の容姿からは女らしさが失せていて、眼は落ち窪み、鼻翼には硬い肉がついて、何かしら、冷酷な感情と狂熱めいた怖しさを覚えるのだった。
彼女は座につくと、胸をせり上げ、荒々しい語気を吐いた。
「どうしたって云うんでしょう。あのメデアみたいな男が、捕まらないなんて。彼奴は、自分の目的のためなら、それが吾が子だって、殺し兼ねませんわ。私、あの男の眼も胸も剥り抜いてやって、いっそ片輪にしてしまいたいんですの」
「いや、僕は決して、そうとは信じませんね」
法水は強く否定して、今までにない厳粛な調子になった。
「そうなったら第一、人間生活の鉄則がどうなってしまうのでしょう。父と娘《こ》――その間には無意識ですが、極く微妙な×××な結合があるのです。いっそこの事件は、父に依っては絶対に行えないものだ[#「父に依っては絶対に行えないものだ」に傍点]――と云いましょうか」
「では、父でないとすると」
暁子は冷やかに云ったが、顔には包むにも包み了せようのない、憎悪の波が高まって行った。
「ですから、いま貴方が云われたメデ
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