ナいて、妙に策のありそうな四十男だった。
「何しろ小保内には、照明掛りの証言があるんですからね。自然気の強い事も云える訳ですが僕は今始めて、舞台裏にも、絶海の孤島と云うやつがあるのを知りましたよ。所で、これだけ云ってしまえば、もうそれ以外に、お訊ねになる事はないと思いますが、ああそうそう、貴方から幡江さんの幻覚論を伺うんでしたっけな」
「いや、あの両所存在《ピロケーション》([#ここから割り注]同時に一人の人物が異なった場所に出現する事[#ここで割り注終わり])の謎なら、とうから僕は問題にしちゃいませんがね」
法水は、眦《めじり》に狡るそうな皺を湛えて、云い出した。
「あの時、亡霊に吹き変ってから、君はたしか奈落へ下りたでしょう。そうすると、君にとって何んとも不幸な暗合が生まれてしまうのです。君は、クリテウムヌスの『虚言堂《ブギアーレ》』を読んだ事がありますか。羅馬《ローマ》の婦人は、男の腰骨を疲れさせるばかりではなかったそうです。凍らせた月桂樹の葉で、手頸の脈管を切ったとか云いますからね」
「なに、それでは僕が、その間に何か、仕掛でも作って置いたと云うのですか」
淡路の顔には、突
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