ソしてしまうのです。つまりフルール・ド・リシイと語尾を云い違えたのは、迷迭香《ローズ・メリー》と云って、Rose と Mary と二つの言葉を思い浮かべたために、それが聯想的に引き出したものがあったからです。ねえロンネ君、フルール・ド・リシイにフリードリッヒ――。この二つの音が非常によく似ているために、ルスをリシイと発音してしまったのですよ。つまり迷迭香《ローズ・メリー》でも|百合の花《フルール・ド・ルス》でも――と云った台詞の意味は、もし女の子が生まれたらローザかマリア、男の子だったらフリードリッヒと附けよう――。そう生まれる子の名定めを、幡江がいじらしくも、思い続けていたからなんです。ねえロンネ君、幡江は君の種を宿していたのだ。そして、今夜を限り、君が堕胎させようとしたその子は、闇から闇に葬られてしまったのだよ」
法水の意表に絶した透視のために、勝敗がこの一挙に決定してしまった。
ロンネの蒼ざめた影のような身体が、扉から蹌踉《よろめ》き出たのはそれから間もなくの事で、法水は何んと考えたか、それなり追求を止めて去らしめてしまった。然し、その一事は、事件の表裏二様に咲いた、二つの花
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