Vョン・ビヨン・グレーヴ」]――と叫んでいる。
勿論その二人には、風間に対する裏切者と云う意味の、風刺を送った訳だが、寧ろそれは、主謀者だったロンネに送られねばならないだろう。
所がまた、王に扮したあの男に、渡した花と云うのが、頗る妙なんだよ。第一に、紫丁香花《パープル・ライラック》――これは初恋のときめきだ。それから花箪草《フラワー・マッシュルーム》は、もう信ぜられぬ――と云う意味なんだし、最後には、|紅おだまき《レッド・カラムバイン》を渡して、怖るべき敵近づけり――と警告を発しているのだ。
それを見ると、二人は曽て恋仲であり、最近には疎んぜられていたにも拘らず、なおかつ幡江は、ロンネの身を庇《かば》おうとしている。所が支倉君、幡江は自分のものとして、紅水仙《グリムスンポスアンサス》をとっている――つまり、心の秘密さ。
ハハハハ、一つ僕も、その花を取ろうかね。僕は、幡江の最奥のものに触れた手を、しばらくそのまま、そっとして置きたいのだよ」
法水は冷然と云い放って、湯気のなくなった紅茶を、一気に啜り込んだ。すると、その時扉の向うで、衣摺れがしたかと思うと、その隙間から、楽屋着
前へ
次へ
全66ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング