轤黷スかの如く、法水は瞬きもせず云い続けた。
「ねえそうでしょう。真理は憎悪を生むと云います[#「真理は憎悪を生むと云います」に傍点]。そして[#「そして」に傍点]、虚無と死とは[#「虚無と死とは」に傍点]、その強い衝動から一歩も離れ去る事が出来ないものなんです[#「その強い衝動から一歩も離れ去る事が出来ないものなんです」に傍点]」
その紙片には、彼女にとって一番懐かしい人の手が、以前につけた跡をとどめている。幡江はさながら、屍体でも覆うかのように、その紙片を二つに折って見まいとした。
が、その堪え難い苦痛を、どうしても取り去る事が出来ないように思われて来るといきなり癲癇のような顫えが襲い掛かって来た。
「ねえお父さん、貴方は私を戦かしている、恐怖の事などは考えられないのでしょう。ああ、いつまでも、あの意地悪い幻にとりつかれているのでしょうか。いまも貴方のお声が――あの圧しつけるような響が、まざまざと耳に入って参ります。でも私だけには、見ない振りをして、通り過ぎて下さるでしょうね。お父さん、あの最後の夜、貴方は私達を前にして、斯う云う言葉を仰言いましたわね。この劇場には形体も美もな
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