寄せ、苦い後口を覚えたような顔になるのが常であった。その一団が、所謂《いわゆる》 Viles([#ここから割り注]碌でなしの意味――劇評家を罵る通語[#ここで割り注終わり])なのである。
彼等は口を揃えて、一人憤然とこの劇団から去った、風間九十郎の節操を褒め讃《たた》えていた、そして、法水麟太郎《のりみずりんたろう》の作「ハムレットの寵妃《クルチザン》」を、「|悼ましき花嫁《ゼ・マウリング・ブランド》([#ここから割り注]チャールス二世の淫靡を代表すると云われるウィリアム・コングリーヴの戯曲[#ここで割り注終わり])」に比較して、如何にも彼らしい、ふざけるにも程がある戯詩《パロディ》だと罵るのであった。
が、訝《お》かしい事には、誰一人として、主役を買って出た、彼の演技に触れるものはなかったのである。所が、次の話題に持ち出されたのは、いまの幕に、法水が不思議な台詞《せりふ》を口にした事であった。
その第三幕第四場――王妃ガートルードの私室だけは、ほぼ沙翁の原作と同一であり、ハムレットは母の不貞を責め、やはり侍従長のポローニアスを、王と誤り垂幕越しに刺殺するのだった。その装置には、
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