覆えってしまう。つまり、縦に突っきろうにも渦流にまかせようにも、重さと抵抗をもつ汽艇のようなものは駄目なんだ。ただ、どうかと思われるのが|桁付き独木舟《アウトリガード・カヌー》だ。
 こいつは、目方も軽いし抵抗も少ない。ふわふわ渦にのってゆくうちに、どれかの島へゆけるだろう。と、マアその考えもそこまでは良いんだがね。考えると、それでは行きっきりになってしまう。渦が逆流でもしないかぎり……永遠の竜宮ゆきだよ」
「………」
 私は、さっきから折竹が頻繁につかう、竜宮という言葉が気になって堪らない。こいつ、何かどえらいものをきっと隠しているなと、問おうとしたのを折竹が遮って、
「それから、もう一つ『太平洋漏水孔《ダブックウ》』探険の大障害というのが、さっきも云ったひじょうな高湿度だ。なにしろ『太平洋漏水孔』の形がちょうど漏斗だからね。海面の蒸発に※[#「さんずい+(冢−冖)」、第3水準1−86−80]留がおこる。その探険隊が、『|海の潮吹き穴《メーレヌ・ブラーゼロホ》』とそこを名づけたように、濛気赤道太陽をさえぎる大湿熱海だ。
 ところで、そのニューギニア会社の探険のとき、実験がおこなわれた
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