だ、大小合して七、八つはあるらしい。その何百、何十万年かはしらぬが隔絶した島のなかを、君は一番覗きこみたいとは思わないかね」
 と、なにやら仄めかし気にニッと笑った折竹の眼は、たしかに私を驚死せしめる態の大奇談の前触。そしてまず、“Dabukku《ダブックウ》”の島々について語りはじめた。
「ニューギニア土人は、その黒点のようにみえる島を穴と見誤った。海水が、ぐるりから中心にかけて、だんだんに低くなってゆく。それを、勾配のゆるやかな大漏斗のように考えた。つまり、その穴から海水が落ちる。そのため、こんな大きな渦巻ができると、いかにも奴等らしい観察が“|〔Dabukku_〕《ダブックウ》”の語原だよ」
「ふうむ、太平洋漏水孔か……」
「そうだ、案外渦の成因はそんなところかもしらんよ。ところで、なぜ『太平洋漏水孔《ダブックウ》』のなかへ踏み入ることができないか。
 一九一二年に、当時の独逸ニューギニア会社の探険隊が、『太平洋漏水孔《ダブックウ》』へ入ろうとした。そのとき、はじめて魔海のおそろしさがハッキリと分ったのだ。それは、『太平洋漏水孔』の海面下が一面の暗礁で、小汽艇のようなものでも忽ち
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