な形でぐるりに近いところだけを巻いているのではないか。きっと、そこを突きぬけて中心に近づけば、案外この船は緩和圏へ出るのではないか。そうだ、この『太平洋漏水孔《ダブックウ》』には島があるということだが……」
 独木舟《プラウー》は、その間しだいに速力を早めてゆく。傾き、飛沫をあび、速さも約五十カイリくらいと思われる。
 と、ここでキューネが狂ったのではなかろうか。いきなり帆綱をもってナエーアに躍りかかった。そして、ナエーアとハチロウを胴の間に縛りつけると、二人の鼻へ粉末のようなものを詰めてゆく。それから、自分を今度は帆柱に縛りつけ、やはりさっきの粉を鼻へ詰めこむのである。やがて、死の瀬を流れてゆく渦中の独木舟《プラウー》のなかで、三人は微動《はじろ》ぎもしなくなった。


    水面下の島

 それでは、キューネは熱気のため気狂いになったのか※[#感嘆符疑問符、1−8−78] 早くも、湿熱環の禍いが頭へきたのか? いや、それは一人キューネだけではない。ナエーアも、ハチロウも異様なことを喚きだしたのだ。
「渦が、逆廻りし出しましたわ。ああ、私たちはここを出られるんですのね」
 とナエー
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