ると大悦びだったが、そんなことを聴くと、キューネは鼻の奥がじいんと滲みるような思い、自分はドイツ、ナエーアはサモアへ……。いずれも帰心矢のごとしと云いながら、帰れない身だ。よくよく、おなじ運命のものがめぐり合わせたもんだと、ますますこんなことから結ばれてゆく三人。
独木舟《プラウー》、いま南東貿易風圏内にある。この|雨桁附き独木舟《アウト・リッガード・カヌー》にはひじょうな耐波性があって、むかしは、ハワイ、タヒチ島間六千キロを、定時にこの扁舟が突破していたといわれる。
「なんだか、赤道《ピコ・オウ・ワケヤ》に近いようですわね」
とビスマルク諸島の北端を出てから三日目の午、ナエーアが、しばらく手をかざしながら水平線を見ていたが、そういった。
「どうして、分るね」
「ホラ、蒼黒い筋が水平線にあるでしょう。あれが、凪がちかい証拠だというんです。じきに、|北の星《ホコ・パア》が見えるかもしれませんわ」
それまでキューネは、ただ羅針盤《カンバス》だけでこの舟を進めていた。いま針路は真東にゆき、エリス諸島辺へむかっている。それだのに、赤道ちかいとは何事であろう。事によったら、皇后《カイゼリン
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