、ナエーアが啜り泣きながらいうように、サモアへ帰れば殺されるだろうし、といって、此処に一生いるくらいなら死んだほうが増しだという。まして、この“Nord−Malekula《ノルド・マレクラ》”は、けっして安全な地ではないのだ。
「私、まだここには一年しかいませんけど、時々、おそろしい高潮が襲ってくるのです。その時は、木へのぼって、ぶるぶる顫えていなければなりません。そしてその潮は、ここの果実《このみ》という果実《このみ》をすっかり持っていってしまうのです。ねえ坊や、これから坊やとオジチャンとオネエチャンと三人で、どこか安楽な島へでもゆこうじゃないの」
 そうして間もなく、この“Nord−Malekula《ノルド・マレクラ》”を三人が出ていった。果実や泥亀《スッポン》の乾肉をしこたまこしらえて、また、独木舟《プラウー》にのり大洋中にでたのだ。しかし、今度は目的地もない。ただ、絶海をめぐって、孤島をたずねよう。そしてそこが食物の豊富な常春島《エリシウム》であれば……。


    太平洋漏水孔《ダブックウ》の招き

「オジチャン、これで坊やたちは、日本へいくんだね」
 ハチロウは、外洋へで
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