》アフガスタ川の叢林中につないで置いたあいだ、なにか羅針盤《カンバス》が狂うような原因があったのではないか。そこで、念のため軽便天測具《カラバッシュ》を持ちだして、その夜、星を測ってみたのだ。なるほど、セントウルスの二つの輝星の位置がちがう。
かれは、軽便天測具を置くとナエーアの手をにぎった。はじめて土人娘のカンの正しさを知ったのだ。
「私たちが、もしこの舟のうえに一生いるようになったら……」
ナエーアがある夜キューネにこんなことを云いだした。星影をちりばめたまっ暗な水、頭上の三角帆《ラティーン・モイル》は、はち切れんばかりに風をはらんでいる。
「そうだねえ。僕らは、こんなようじゃ当分海上にいるだろうからね」
事実この三人は、見る島、ゆく島の人たちによって残酷に追われていた。キューネのだれにも分るドイツ訛りと、戦争が終ったか終ったかと聴くような怪しい男には、どの島民も胡乱《うろん》の眼をむけずにはいない。銃を擬せられて、逃げだすときの情なさ。まったく、この三人はかなしい漂泊を続けていたのだ。
しかし、この扁舟のなかの二人の男女には、たがいに木石でない以上、何事かなければならない
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